炎の戦線 エル・アラメイン

前回のエントリーからビミョウに間が開いてしまいましたが、借りてきたDVDを見終わったので観想を綴ってみたいと思います。
改めて作品自体のデータを見ますと

内容(「Oricon」データベースより)
第2次世界大戦、エル・アラメインでの戦闘をイタリア軍の視点から描いた悲痛な戦いの映画。イタリア人監督エンツォ・モンテオレーネがイタリア軍小部隊の記録と生存者の証言をもとに再現した。出演はパオロ・ブリググリア、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノほか。
───Amazon.co.jp作品紹介より

と言う事なので、娯楽性はグッと抑え目になっているモヨウ。逆に史実や証言に基づいているので北アフリカイタリア軍の様子を知るにはもってこいの作品かもしれないですね。全体的な印象としては何だか日本軍の戦争体験と似通った色が強い様に感じました。ドッチも負け戦でしたからね、似てしまうのも仕方の無いところでしょうか?
物語は若き志願兵が軍用オートバイの後席に乗って砂漠を渡るところから始まります。彼は祖国への貢献を望んで軍に志願した様なのですが、実際に配属されたのは場末の南部戦域に配置された歩兵師団。元々細かった補給が英軍の妨害で更に細くなり、武器・弾薬はおろか日常的な消耗品(食料・飲料水)まで行き渡らなくなっています。お陰で英軍の攻撃が散発的であるにも拘らず、陣地全体が重い空気に包まれています。
因みにここで見かけたイタリア兵の帽子が日本陸軍のそれにソックリでちょっと驚きでした。首筋を日焼けから守る為に日除けの布を垂らしてるのですが、日本軍以外でそういう装備を見た事が無かったので意外な感じでした。*1
兎に角ろくに補給も無く、したがって兵員の補充もごく稀(主人公がその貴重な補充の新米)なのでイタリア軍側は積極的な攻勢には出られません。物資の欠乏振りは度々劇中でも描かれており、フィオーレ中尉が到着したばかり*2の主人公に水をねだるシーン*3だったり、部隊宛に支給された水が少ない上に油交じりだった事でクレームを付けても「貰えるだけ有り難いと思えよ」とけんもほろろだったり、不衛生な水さえ飲まざるを得なくて赤痢が蔓延してると言う台詞があったりと、ひたすら水に困っているんだと言う描き方がされていて印象的でした。*4
そんな有様なので有名なジョーク「イタリア軍は砂漠の真ん中でも毎日パスタを茹でていたので大量の水を消耗し、敗北した」はあくまで都市伝説の類なんだと改めて思わされてしまいました。
その様な状況で戦わされている各将兵の人物像も印象的。人的にも物的にも英軍より劣勢で勝ち目が無い事を誰もが理解している事から沈痛な雰囲気になっているものの、英軍側狙撃兵に味方が倒れていくのを目の当たりにすると我を忘れて反撃を行う兵士達。自分の妻の誕生日が来た事を主人公に話しながらも、一度も本国に帰れず二年もの間離れ離れになっているリッツォ曹長。陣地に迷い込んだトラックに載せられていた馬*5を腹いせに拳銃で撃ち殺そうとしながらもついに引き金を引けなかったフィオーレ中尉。軍全体が敗走するなか、将校がたった一人で従兵を葬っている。名を問われても答えず、自分には構うな、自分達の義務を果たせ(つまり生きて帰れ)と言って見送った後、拳銃を頭に当てるシルエットと銃声、トラックを空襲で失った負傷兵の群れを見ながらも彼らを見捨てて自分達だけ車で逃走する司令部の一行。弱兵として有名になったイタリア軍でしたが、その原因となると大日本帝国の陸軍とそう変わらないものが有る様に思います。「上の無能を下の努力で補う」だったかな?そんな言葉が有りますが、まさにそれがそのまま当てはまるような所はイタリアも日本も共通してたのではないでしょうか。
イタリアに関するジョークでは「今度はイタリア抜きでやろう」と言うのも有るんですが、この映画を見終わった今ではこれで笑う気にはなかなかなれないですね・・・別に兵士が意気地なしで戦闘に耐えられない程だった、とかではなくて国家の上層部が物理的な限界を無視した戦争を始めてしまったが故の結果ですからね。はてなブックマークのコメントで牟田口の名を挙げた私でしたが、それが殊更に苦く感じられる様な気がしてくるんですよね。*6イタリアが駄目なら日本だって相当ダメだろうに。そう思えてなりません。「戦略上の失敗は戦術的努力では取り戻せない」そういう言葉も有るんですから・・・

この様な史実ベースの作品を見て思うのですが、ステレオタイプエスニックジョークを基にした「ヘタリア」の様な作品は載せる媒体を選ばなけれな選ばなきゃいけないんじゃないかという気がするんですよね。別にこういう、ある意味不謹慎な作品(orジャンル)を否定する気は無いんですが、誰が見るか制限できない環境であれば誰が見ても問題になり難くなる様な配慮が必要だと思うんですよね。なまじっか歴史に材を取っているだけにそれなりの説得力を持ちかねないし、紋切り型である事の危険性が見過ごされる事にもなりかねないですから、実際はどんなものだったかと言う注釈ぐらいは必要かと。または特集記事の枕に使う、というのであればかえって一定の存在価値を得られそうにも思います。
少なくとも「ジョークだから目くじらを立てるな」とかいうのは一方的過ぎると思いますし、「個人が暇つぶしに描いてるだけだから粗が有っても指摘するな」というのは逆に作品を作ると言う行為(更に公開すると言う事)を馬鹿にしてるとも思えて簡単には首肯しかねます。それはつまるところ「この作家は進歩する余地が無い」と言うに等しい面が有るからです。果たしてそういう台詞を作家本人に向かって放てるかどうか、とっくり考えてみれば分かるんじゃないでしょうか?

*1:他国の軍だと帽子やヘルメットのひさしを大きくして対応してたと思うんで、余計に日本との類似性が強まってしまった感じ.。

*2:よって水筒が満タン

*3:まるで極上の酒を味わうかのように飲む表情や「美味い水だ」と言う台詞による演技

*4:他には隊で最大の火力が迫撃砲だとか、その弾薬も残り僅かで精密照準して使ってるとか、AFVの類が皆無だとか挙げだすとキリが無かったり。

*5:アレキサンドリアを陥落させた時にムッソリーニ統帥がパレードに使う為。兵を飢えさせながらもそんな物はちゃっかり運んでいたらしい。他には大量の革靴用クリームも。

*6:ウドのコーヒーよりも苦いかと